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2013年10月

2013年10月 5日 (土)

『そして父になる』──無駄のない編集

『そして父になる』是枝裕和監督・脚本・編集(2013年)

 似たようなストーリーが最近の中東の作品にあるし、昔からよく描かれたテーマでもある。したがって、実は本作への関心は、評判のわりにはあまりなかった。

 しかし、とにかく是枝監督の、カット割り、編集のセンスには感心した。また、細部が、弱者の視点(つまりは「貧乏子だくさんの家族」(笑))の方に立っている点に、監督の精神の健康さが感じられ、見ていて快い作品となっている。

 子役を中心に、相変わらずキャスティングへの配慮も行き届いている。毎回だが、樹木希林の存在には老いるのも悪くないと思わせられることしきり。

 心の隙間を埋めるような、映画の空間に染みいるような、テンポを落としたグレン・グールド(だったか?)の「ゴールドベルク変奏曲」も作品世界に品を添えている。

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『熊の敷石』──志の高さに感心

『熊の敷石』堀江敏幸著(講談社文庫、2004年2月刊) 

 非常に知的な作りである。エッセイかと思われるほど淡々とした筆致だが、描かれるのはエッセイが描き得ぬ、複雑な精神世界である。フランスとかモンサンミッシェルを知っていれば、理解は倍増するが、知らないなら知らないで、未知の世界へ足を踏み入れる興味がわく。どの地点でフィクションが成立するかを問うている作品であり、作者の志は非常に高いと見た。しかしながら、文庫版についている、川上弘美の解説がひどい。まったくの「印象解説」である。作者の世界を我田引水して、セクシーだわ、うっふん、とやっている。ほかに書き手はいなかったのか? これでは堀江氏がかわいそうである。

 他のレビューにあったように、本作は、フランス映画ほどキメが荒くはないし、文章はりっぱな日本語で翻訳調でもない。また、大江健三郎や村上春樹とは、テーマも文体も違って似てもにつかない。自分の理解の及ばないものに対して、無理に既知のものと結びつけなくてもいいと思うのだが……。要するに、本書を読むのに適した読者ではなかったのだ。

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