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2014年3月10日 (月)

『それでも夜は明ける』──ほんとうは誰も知らない奴隷制の歴史

『それでも夜は明ける』スティーブ・マックィーン監督(2013年)

 こういう作品にハリウッドは弱い。辛い点をつけただけで、奴隷制賛成主義者だと見なされはしないかと密かに怖れているかのようだ(笑)。「アメリカの良心」と言われる歴史家、ハワード・ジンの本によれば、奴隷貿易は、コロンブスがアメリカに到着する50年も前に、ポルトガルで始まった。つまり、1440年代のことだ。アメリカでは、1619年に20人の黒人がジェームズタウンに送られたのが、始まりだ。以来、リンカーンが「経済的理由で」奴隷制を廃止するまで続く。奴隷貿易を最もさかんに行ったのは、オランダで、次がイギリスだった。アフリカにも奴隷はいた。つまるところ、誰も、黒人も白人も、よくは知らないのである。しかし、こういう映画を作ると、「傑作だと言わなければいけない症候群」を発してしまうのは、やはり、長い奴隷制の「たたり」(笑)なのかもしれない。

 監督の、スティーブ・マックィーンは、黒人のイギリス人であり、主人公のキウェテル・イジョフォーも、黒人のイギリス人であり、「善玉」のプランテーションの農園主を演じる、ベネディクト・カンバーバッチも、「悪玉」の農園主を演じるマイケル・ファスベンダーも、ドイツとアイルランドのハーフであるとはいえ、イギリスで活躍する俳優である。つまりは、「イギリス人たちに描いてもらったアメリカ奴隷の世界」なのである。

 物語の時代が、1840年代ということで、長きにわたるアメリカ奴隷制の歴史のなかでも、終盤に近い微妙な時代である。北部の自由州に住む黒人は、20万人いた。しかし、完全なる奴隷制廃止には、南北戦争を待たねばならない。そして、自由州に住む黒人の地位も安定していたとは言い難いのではないか。マックィーン監督は、まず、アメリカの奴隷制を撮ろうという意志があり、のち、本作の原作にめぐり会った。過酷な事実を描いた手記に心打たれたと言うが、アメリカ奴隷制の残酷さは、こんなものではない。

 しかし、演出には、見るべきものがあった。視点があくまで、主人公の見た「現実」である。奴隷船のメカニズム、鞭打たれた皮膚、農場の光などが、アップでていねいに描かれている。音楽は、どこか現代性を感じさせるセンスで貫かれている。

 しかしだ、私は、前作の、セックス依存症の男を描いた『SHAME、シェイム』の方が、より深く人間を描いているように思った。その男を、今回のファスベンダーは、引きずっているように思った。興味深い役者である。

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