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2014年10月20日 (月)

『誰よりも狙われた男』──ホフマン最後にして最高の演技(★★★★★)

『誰よりも狙われた男』 (アントン・コルベイン監督、2013年、原題『A most wanted man』)

 ル・カレのスパイものは、007のようなアクションは出てこない。主人公も、007のような「いい男」ではない。かなりストイックな男で、現場で、「スパイ道」(などというものがあれば(笑))に悩む。作家自身が携わっていただけあって、かなりリアルである。『裏切りのサーカス』の主人公、スマイリーも、スリムなゲーリー・オールドマンが演じたが、原作は、フィリップ・シーモア・ホフマンの体形にちかい。本作が『裏切りのサーカス』と違う点は、舞台がハンブルクで、主人公は、ドイツの諜報活動に携わるドイツ人である。ただドラマ中にもセリフで示唆されるように、ドイツは憲法上、表だって諜報機関を置くことができないので、すべては、部署の名前もあたりさわりなく、「存在しない機関」として活動している。

 そのドイツ人を、シーモア・ホフマンが演じる。諜報活動を現地で行う、CIAで言えば、「ケース・オフィサー」には、現地で直接スパイ活動を行ってくれる人物を、現地の政府や要人の側近の中からスカウトしなければならない。そして、その人物を命をかけて守らなければならないのだが、シーモア・ホフマン演じるギュンターは、過去にそれらのエイジェントを、死なせてしまったこと事実があり、そのことを悔いている。そして、今回も、そういう状況を彼は迎える。それがこの物語のポイントである。

 イスラム原理主義者の「過激派」の資金源を追いつつ、人物も物語も錯綜していく。映画はその錯綜だけを見せ、その中心に、ニコチンとカフェイン中毒のホフマンがいる。腹も出ているこの男は、しかし、魅力的である。耐えきれなくなった時には、ひとりピアノを弾く。右腕とも言える女性の部下は、どうも彼に気があるらしいが、彼は受け入れない。

 いまや、スパイの巣窟となったハンブルクの街を舞台に、ハリウッド映画でお馴染みの役者たちが、「意外な」雰囲気で登場し、ドイツ人たちの苦悩を演じる。人権擁護派の弁護士を、レイチェル・マクアダムスが演じているが、この女優、『アバウト・タイム』の「女子」からはまったく考えられない変身ぶりで見張るが、元来、彼女は、うまい役者であるから、なんでもお手ものであろう。そして、銀行家のウィレム・デフォー。この人も、とてもドイツ人には見えないが、おそらくドイツ俳優では出せない、深いアイロニーを滲ませている。「樋口可南子そっくり(笑)」のロビン・ライトのCIA幹部も、黒髪のショートヘアで、アッと驚く変身である。しかも役柄も、今までない、「激辛女」。どの役者もこの役者も、とてもドイツ人には見えない。しかし、先も書いたように、ドイツの役者では出せないのだ。この物語の深いテーマが。

 で、ふたたび、シーモア・ホフマン。二月に死去した彼の最後の作品である。すばらしい。最高の演技を残して死んだのだから、もう生きている意味もなかったのかもしれない。逆説だが、そんなふうも思わせる。彼の横顔のアップが多かったように思うが、ただ煙草を吸ったり、車を運転したりしているだけの彼から目が離せない。デブにこれほどまでに惹きつけられるなんて……嗚呼(笑)!

Hoffman_d

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