« 二人のノーベル賞経済学者、ギリシア首相を支持 | トップページ | Droit naturel »

2015年7月14日 (火)

『病む女はなぜ村上春樹を読むか』──「近過去文壇史」としては読ませるが……(★★★)

『病む女はなぜ村上春樹を読むか』(小谷野敦著、2014年5月刊、KKベストセラーズ刊、「ベスト新書」)

 確かに題名の、「病む女はなぜ村上春樹を読むか」には、直接答えていない。本全体から考えろということか。本書は、導入部はなかなかおもしろい。しかし、ページを追うに従って、著者特有の、「私小説論」になってしまって、村上春樹に対して、「もう、あんたのネタはバレバレなんだから、かっこつけてないで、そろそろ、本格的な私小説(著者、小谷野氏にとっての真の文学(笑))を書いたらどうなんだ?」と提案している本である。私は、小谷野氏とはまったく違う私小説観、文学観を持っているので、氏に賛成はできないのだが、本書で、氏の「主張」はよく理解できた。

 しかし、である。村上春樹がたとえ、「過去に病んだ、フェラチオ好きの女とつきった」経験があり、それにずっと引きずられているとしても、まあ、私小説など書かないだろう。なぜなら、稼げなくなるからだ(笑)。現に小谷野氏も、私小説(小谷野氏にとっての純文学)は売れないと言っているではないか(笑)。では、稼ぎを捨てて、「名声」(ノーベル賞)を取るべく、私小説にチェンジするか? これも、過去に私小説(一般的な意味での)が取った試しなどないのである。小谷野氏は認めてないようであるが、私は小林秀雄派なので、私小説を書くなら、小林の「『告白』を書いたルソー並の覚悟をしてから書きべきである」という意見に与している。

 それはともかく、この薄い新書にして、「フェラチオ」なる言葉が頻繁にでてくるようである(笑)。小谷野氏の村上春樹論のキーワードである。確かに、春樹の小説にはフェラチオ好きの「美女」が登場し、積極的にやってくれる。小谷野氏は、春樹は、それほどフェラチオ好きなのか、と訝っていて、(できることなら)自分もあやかりたいと思っている、フシがないでもない(笑)。

 私は、村上春樹は嫌いだし、「多崎つくる」はAmazonレビューも書いたが、小谷野氏の感想とだいたい同じである。フェラに及んでは、またかよ、である。性行為において、フェラが問題になるのは、玄人の女性の世界である。素人の女性はそういう行為はあまりカンケイない。しかし、アメリカ映画を見るがぎり、アメリカ人は、どんな知識人も、性生活で、フェラを問題にしていることがよくわかる。たとえば、ついこないだ観た、若年性アルツハイマーがテーマの『アリスのままで』でも、大学教授同士の夫婦でも、新婚旅行かなんかの思い出を語り合うシーンで、「ほら、きみがフェラしてくれたね〜」などと言っているのである。それを見て、私は呆れた。アメリカの映画には、仲睦まじいカップルの場面の会話にはよく出てくる。村上春樹は嫌いだが、弁護すると、春樹は、アメリカのハードボイルド小説(主人公がやたらとモテ、美女のサービスも満点。イギリス本格と違って、謎解きは「お飾り程度」(笑)))の影響を強く受け、その展開を土台に、日本の風土で描いているので、唐突にフェラが出てきて不自然なのだ(笑)。もちろん、春樹自身も、経験あるのかもしれないし、あこがれてもいるのだろう。

 ついでに、大江健三郎も、かつて、女性週刊誌に小説を載せたことがあり(どういう内容かは知らない)、それは、自身の著作リストから完全に抹殺しているそうである。という「新資料」も、おまけとして載せておきます(笑)。

 さらなる「おまけ」:『このミステリーがひどい』(私もかねがねそう思っているので)も予約してあります。楽しみです。読んだら、また(書けたら)レビューを書きます。

|

« 二人のノーベル賞経済学者、ギリシア首相を支持 | トップページ | Droit naturel »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『病む女はなぜ村上春樹を読むか』──「近過去文壇史」としては読ませるが……(★★★):

« 二人のノーベル賞経済学者、ギリシア首相を支持 | トップページ | Droit naturel »